なる(3)

げんすけ

2020/07/08 08:19


「春」の反対って何でしょう? たいていは「秋」だという答えが返ってくるでしょう。「春」の有力な語源候補が「張る」、つまり草木の芽がふくらんでくる時期であるなら、春の反対は「成(=なる)」ではないか。こじつけが好きな偏屈者の中には、そんな突拍子もないことを言う人がいるかもしれません。ここにもいます。


 草木が芽をふくらませ、その芽が枝や葉や花などに生育していく。そして、いわば総括として、実をつける。あとは、冬を待つだけ。これって、秋ですよね。


*「なる」=「成る」=「生る」=「為る」=「慣る・慣れる」=「馴る・馴れる」=「狎る・狎れる」=「熟る・熟れる」=「鳴る」


 このブログでは、よく「=」を使用します。もちろん、数学的な意味はいっさいありません。「感字」の一種だと考えてください。上の言葉の羅列では、「=」は「同じ読み方をします=同音です」という意味です。たった今書いたセンテンスでの「=」は、「似たような意味です」という意味です。感覚的にとっていだいて構いません。学術論文を書いているわけではないので、その程度のテキトーさはお許し願います。


 さて、上でこじつけ用に並べた言葉から、「春」と関係深そうな「成る」=「生る」=「為る」のイメージを調べてみました。


*「成る」=「生る」=「為る」 ⇒ 物事が新しく形をとって現れる、こんなになっちゃった、えっこれがあれだったの、おっできた、植物が実を結ぶ、うまそうなものができたぞ、実がなる、みのる、豊作だ神様に感謝感謝、生物が生まれ出る、かつてとは別のものや状態にかわる、これがこんなふうになったの、質や内容がかわる、ある状態にたっする、驚き桃の木山椒の木、ある時に達する、もうこんな時間か、あるものごとの機能や役目を果たしたり演じる、すっかり○○になりきっちゃって、役に立つ、こりゃ使える、完成した状態になる、仕上がる、最終結果にいたる、一件落着、組み立てられる、構成されている、成立する、おめでとうよかったよかった、うまくいく、成功する、おっとやったね、やったあ、というイメージ。


 したがって、


*「なる」とは「はる」の結果である。


 二つの言葉に限定すると、以上のよう言えると思います。


     *


 さて、春夏秋冬をサイクルで言い表すなら、次のように言えるのではないでしょうか。


*「はる」から「そだつ=かわる=わかる」という過程をへて、「なる」という状態で一応の「決着=成功」に至り、次に「ねむる=やすむ」という態勢をとりながら再び「はる」の状態を待つ。


「秋」の語源については、辞書の記述は頼りなげです。秋空が「あきらか=すみきってあかるい」からかもしれない。収穫が「あ(=飽)き満ちる=十分に満足する」からかもしれない。ひょっとすると、植物の葉っぱが「あか(=紅・赤)くなる=紅葉する」からかもしれない。広辞苑という辞書には、そうした意味のことが書いてあります。


「こんな説明では、あきまへんなあ」、「あんたら、言葉で、あきないして、おまんま食うてるんやろ。しっかりせんと、あかんわ」。関西の方なら、そうおっしゃるかもしれません。ちょっと違いますか? やっぱり……。えせ関西弁をお許しください。あきまへんとあきないを使いたかっただけなのです。


     *


 ちなみに、英語で秋は fall と autumn の二つがありますね。fall のほうが古い言い方でゲルマン語系(※日本語の大和言葉系にあたります)、その意味は「落ちる=葉っぱが落ちる=落葉」で米国英語で使われている。主に英国などで用いられている autumn は、「収穫期=成熟期=熟年・衰え・老化が始まる時期」という意味のラテン語系(※日本語の漢語系に当たります)の言葉から来ているそうです。autumn ってまさに「なる」ですよね、などとこじつける人がいそうです。ここにもいます。


 ついでに申しますと、春は spring ですね。語源は古いゲルマン語系の言葉で、「はねる=突然ぴょんと飛び出す」とか、「流出口」(※何ですか、これは?)とか「春」(※そのまんまじゃないですか!)とか辞書によってまちまちです。まちがいじゃないでしょうね。昔のことなので、あやふやなんでしょうか?


 でも、現在使われている spring の意味を見ると、何となく納得=体感=「感字」できます。


*「春」のほかに、「はねる、とびはねる、おどる、穴から飛び出す、はじく、わきでる、生える、芽を出す、ぜんまい、スプリング、泉、源、水源」など。


の意味があります。言い方を換えると、


*ぴょんぴょん、うごうご、ひょっこり、びょーん、ぷしゅーっ、こくこく、わーい、というイメージ。


ですね。


 やたら元気がいい。激似とは言いませんが、日本語の「はる=張る」と、張り合ってませんか=かぶりませんか?


「はる=張る=春」の反対が「なる=成」だったら、おもしろいのに……。


 いや、こじつけっぽくすぎて=あたりまえすぎて、おもしろくないですね。前言撤回します。言葉の仕組みはわけが分からないほうが、想像力=創造力を鍛えてくれそうです。


※この文章は、かつてのブログ記事に加筆したものです。https://puboo.jp/users/renhoshino77



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