なる(4)
げんすけ
2020/07/10 08:21
「はる」の反対が「なる」ではなく、「あき」だというのは、語源から解釈すると「晴れてすみきった春の空」から「晴れてすみきった秋の空」に戻ったということです。では、その間にある「なつ」と、その後に続く「ふゆ」には、「晴れてすみきった 夏の or 冬の空」はないのでしょうか? そんな屁理屈を言いたくなります。そこで大きな辞書で調べてみました。まず、「なつ」を引いてみました。
あっと、驚きました。前回の記事「なる(3)」で、こじつけた「なる」が出てきたのです。語源の説明として、いろいろな説が自信なげに並べてある中で、なんと、いけしゃあしゃあと、「満州語の『春』と語源がいっしょか?」とか、「『あつ=暑い』、『なる=生』、『ねつ=熱』からなどとも言われているらしい」なんて意味のことが書いてあるのです。辞書には「?」も「らしい」も使ってはありませんけど、よく分からないので専門家として恥ずかしいのだと推測されます。いずれにせよ、
*「あつ」+「なる」+「ねつ」=「なつ」
国語辞典様が、こんなテキトーな=でたらめな=自由奔放な=大胆な式で、「夏」を説明しているとは! 「なる」ほどと「なっ」とくできるどころか、「ねつ」いもへったくれも「あっ」たもんじゃありません。それにしても、「なる」が「あっ」たのには、たまげました。「あっちっち」と「ねつ」と「なる」とが、合同結婚式を挙げたのでしょうか? ところで、もしも三人で結婚したならば、法律的には重婚になるのであろうか、などと要らぬ心配をしてしまいました。
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開いた口を閉じるのを忘れたままに、次に「冬」を調べました。これには、笑っちゃいました。こじつけが好きな自分としては、わくわくもしてきました。のっけに「ひゆ(=冷)」と書いてあったので、「ひゅーひゅー、北風さんは……」とかいう、幼いころに読み聞かされた童話の一節が頭に浮かびました。そりゃ、そうですよね。
「冷たさ=寒さ」を「冬という時期」に転換する。これって、格好をつけてお上品に言えば「比喩=ひゆ」ですね。簡単に言えば「たとえ」です。ややこしく言うと、「Aの代わりにAでないものを用いる」という、言葉の大前提みたいな「代理の仕組み」です。こうしたヒトの行為を、このブログでは、ずばり「こじつけ」と呼んでいます。
さて、辞書に記述してある「冬」の説明に話を戻します。「ひゆ(=冷)」に続けて、「一説に」、寒さが力を「ふるう=奮う=振る」の意味があるので、「ふゆ=振」か? あるいは、「ふるう=ふるえる=震」か? または、「ふゆ=殖=殖える」という説もあり。ということが書いてあります。つまり、寒くて、外へ出るのもおっくうだから、家の中で「子づくり=生殖」に励むってことでしょうか。体が温まるでしょうね。なかなか説得力があります。
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「夏・なつ」と「冬・ふゆ」については、以上のようことが書いてあるのです。いやはや、「こじつけ」=「だじゃれ」=「オヤジギャグ」=「地口(じぐち)」=「(広い意味での)たとえ」=「(広い意味での)比喩」の力はすごい。事実関係=因果関係=歴史的経緯はあってもなくても構わない、というか、「そんなの知ったことか」という神経=精神の産物である「こじつけ」は「正しい」。パワーがある。こじつけは脳を活性化し、想像力(=イマジネーション)=想像力(=クリエイティビティ)を養う。何だか、「はる=張る=春= spring =ばりばり=ぴょんぴょん=ぴちぴち」の気分になりました。元気をありがとう、という感じです。
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それにしても、辞書にある「一説によると」、「……という説あり」、「……の意からなどともいう」、「……なる意からとも」といった記述の「歯切れの悪さ=うじうじぶり=みじめったらしさ」ですが、なかなかいい味をかもしだしていますね。情緒と悲哀と風情を感じさせます。
さらに、「……と同源か」、「……であるところからか」という具合に、「?」を省いた「潔くない=往生際の悪い」表記も、おちゃめでチャーミングですね。苦しいんですよ、きっと。いや、けっこう、楽しんでいるのかも……。
辞書づくりに励んでいらっしゃる学者さんたちやそのお弟子さんたちが、子づくりと同様にせっせと汗をかいて苦労なさっているさまを垣間見る思いがします。作る楽しみ、産む苦しみ、ですか。
*素人も、自信をもって、こじつけをやっていいのだ。言葉はみんなのものなのだ。
これが、ここまでのとりあえずの「強引なこじつけ=結論」です。
※この文章は、かつてのブログ記事に加筆したものです。https://puboo.jp/users/renhoshino77
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