かわる(5)
げんすけ
2020/06/30 09:35
いつの間にか、「かわる」の話が「わかる」の話になってしまいました。「かわる」から「わかる」にテーマが変わり、「かわる」に代わって「わかる」が登場し、「かわる」の話が「わかる」にすり替わった、ということです。とはいえ(というよりも、したがって)、一貫して「かわる」について書いているつもりなのですが、分かっていただけますでしょうか?
というわけで、「かわる・かえる」という言葉について、「わかる・わける」と同様の表みたいなものを作ってみたいと思います。そうすれば、「わかる・わける」と「かわる・かえる」が、シンクロ状態=重なり合っているさまがわかるはずなのです。では、さっそく試してみます。
*
まず、前提です。
*「かわる」=「変わる(or 変る)」=「代わる(or 代る)」=「替わる(or 替る)」=「換わる(換or る)」
以上が、送り仮名で見た「かわる」のとりあえずの全貌です。次に、上で使われている個々の漢字にまつわるイメージを、複数の漢和辞典や、国語辞典、用字用語集を参照しながら、アマチュアの立場からまとめてみます。
*「変」 → ものごとの状態や質や内容が以前と異なった状態になる、変化する、良し悪しは別にしてこれまでとは違うことは確か、化ける、あれあれ、あれよあれよ、ふつうじゃない、うへっ、尋常ではない、不気味だ、いやだあ、異様だ、あらまあ、変だ、おかしい、二つ(※あるいはそれより多い数)のものがそれぞれ違っている、妙なことが起きる、突然起こる、わざわい、困った困った、何だこれは、どうなってるんだ、乱れる、くるう、時があらたまる、場所がうつる、動く、ありゃいつのまにかこんな(or あんな)ところに、というイメージ。
「変化」「不変」「変革」「変容」「変移」「変質」「変調」「変転」「変貌」「豹変」「激変」「劇変」「臨機応変」「変装」「変相」「変速」「変性」「変成」「変声期」「変名」「変節」「変心」「変身」「変遷」「変更」「変異」「異変」「凶変」「地変」「事変」「政変」「変死」「変幻」「変人」「変質者」「変種」「変則」「変体」「変態」「大変」「変乱」「変事」「変換」「変動」……
*「代」 → AのかわりにBを用いる、かわって引き継ぐ、今度はこれを使うのね、○○と申しますよろしく、みがわり、○○(or ○○たち)になりかわりましておつとめさせていただきます、入れ違い、新しいのはいいけどこんなんで大丈夫かしら、かわるがわる、いれかわりたちかわり時は過ぎる、時世、あれのかわりにこんなにもらっちゃった、あたい、これとあれが同等だっていうことなのか、かち、ねだん、というイメージ。
「代理」「(交代)」「(身代わり)」「代人」「名代」「代表」「代行」「総代」「代官」「代議士」「代議員」「代議制度」「代用」「代書」「代筆」「代講」「代弁」「代々」「世代」「時代」「歴代」「上代」「末代」「古代」「近代」「現代」「当代」「先代」「初代」「稀代」「希代」「代償」「身代」「代金」……
(※( )は別の漢字を当てる場合があるものです)
*「替」 → Aに入れかわってBになる、今度はこっちの番、入れ違い、今度はこんなのが来たよ、○○と申しますよろしく、おっ新顔だね、これが駄目になったから捨てちゃう、あっちにしよう、時があらたまる、というイメージ。
「(交替)」「(替え玉)」「(身替わり)」「(引き替え・引替え・引替)」「(取り替え・取替え・取替)」「(組み替え・組替え・組替)」「(入れ替え・入替え・入替)」「(言い替え・言替え)」「(借り替え・借り替え)」「(着替え)」「(差し替え・差替え)」「替え歌・替歌」「両替」「為替」「鞍替え・鞍替」「付け替え・付替え」「クラス替え」「商売替え」「国替え・国替」「組織替え」「吹き替え・吹替え」「振り替え・振替え・振替」「月替わり」「年度替り」「日替わり」……
*「換」 → AとBとをかえる、とりかえる、入れ違い、差し引きゼロ、○○さんだと思ってお相手しますからね、○○さんだと思って何なりとお申し付けください、新しく来たものの役目と役割を重視する、これで役に立たなかったらクレームどころか返品だ、というイメージ。
「交換」「(換え玉)」「(引き換え・引換え・引換)」「(取り換え・取換え・取換)」「(組み換え・組換え・組換)」「(入れ換え・入換え・入換)」「(言い換え・言換え)」「(借り換え・借換え・借換)」「(着換え)」「(差し換え・差換え)」(「置き換え・置換え)」「変換」「転換」「置換(ちかん)」「換気」「乗り換え・乗換え・乗換」「換言」「換金」「兌換」「換算」……
以上は、即席に作成したリストなので、だいたい感覚的にはこんなものではないか、くらいに理解してください。
*
さて、
*「かわる・かえる」と「わかる・わける」がシンクロする=かぶる=ダブる=重なる=関連し合う部分がある
ことに、お気づきになったでしょうか? 上のリストを眺めていて、次のように思いました。
*「かわる・かえる」と「わかる・わける」のイメージを比較してわかるように、言葉はでたらめ=いい加減=ほぼ支離滅裂と言っていいほど、ぐちゃぐちゃした構造を備えているらしい。そのぐちゃぐちゃから、ヒトは自分の都合に合わせて、理路整然=論理的=すっきりした意味をくみ取っているらしい。その意味において、ヒトという生き物は頭がいい=高度な情報処理能力を有していると言えそうだ
です。ややこしいことを書いて申し訳ありません。うんと簡略化して言い直します。
コンピューターで処理された画像、たとえばXXの写真をパソコンやスマホのディスプレイで見て、「これは何か?」と尋ねられたとき、間違っても画素の集まりであると答えてはなりません。しらーっとした表情で、
*これはXXです
と口にすれば、それでいいのです。また、こうも言えるでしょう。トイレの壁の染みを見て、それが〇〇に見えたら、そんな自分を素直に受け入れる。
*それは〇〇なのです。
大丈夫。誰もあなたを軽蔑しませんから。それがヒトというものだと考えましょう。胸を張っていいのです。まぼろしをまぼろしと受け取ってこそ、ヒトだなのです。それこそ、ヒトの道だと言えます。
というわけで、今あなたの目にしているものは言葉であり、もっと詳しく言うと文字であり活字なのです。本を読みながら、自分が目にしているのはインクの染みだなんて意識しないのと同じです。画素やインクが意味あるのものに「かわる・かえる」、したがって「わかる・わける」とも言えます。だから、画素の集積だなんて野暮なこと(あるいは危ういこと)を考えたり口にするのはやめましょう。へそ曲がりとか、偏屈者とかを通りこして、ひとでなしになってしまいます。
*
くどいと言われるのを覚悟のうえで「かわる・かえる」と「わかる・わける」をまとめますね。
ヒトの情報処理能力は敏感さと鈍感さの同居の上に成り立っています。どちらが欠けても、あるいは過剰になってもいけません。敏感さと鈍感さの絶妙なバランスが大切です。そのバランスが維持されているからこそ、パソコンやスマホを使うことができ、本が読めるのです。さらに――話が飛躍しますが――日常生活を平穏無事に送り、生まれ死ぬという生き物としての一生をまっとうすることができるのです。その意味で、ヒトのからだは(ヒトだけでなく、あらゆる生きとし生けるもののからだは)うまくできています。いい仕事をしています。
ヒトにおいては、知覚、認識、ひいては言語の使用、そのいずれの段階においても、
*ぐちゃぐちゃごちゃごちゃから、一個のヒトとしての自分の都合に合わせて、理路整然=論理的=くっきりはっきり=すっきりした意味をくみ取る(=かわる・かえる、そして、わかる・わける)のがヒトとしての基本的なありようである
と言えそうです。ぐちゃぐちゃした言い方で申し訳ありません。
※この文章は、かつてのブログ記事に加筆したものです。https://puboo.jp/users/renhoshino77
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