電子書籍が売れないのは当然?

げんすけ

2020/07/06 10:02


 ある無名の書き手が電子書籍で小説を発行(出版)しようとしている、と想定してみましょう。


 どのようにして電子書籍を出すことになったのでしょう? いろいろなケースがありそうです。


     *


 無名の書き手の原稿を電子書籍化する業者がいますね。さまざまな業種から参入しているようです。印刷業と出版業のなかでの中小・零細企業が目立つ気がします。また、本作りとは無縁だった企業や個人も見受けられます。


 共通点は、ワード文書やテキスト文書を、PDFやePUBというファイルに落として電子書籍化するだけのノウハウを持っていることでしょうか。それがいわば「武器」です(後述しますが、この「武器」は大したものではありません。やがて誰もが簡単に電子書籍を作れるソフトができるでしょう)。


     *


 電子書籍といっても、ルビなしの横書きしか作成できない業者もいるでしょうし、縦書きで作るだけのスキルを持った業者もいます。


 縦書きと言っても、ルビがある場合に行間が広がってみっともない字面にしかできない業者がいる一方で、ルビがあるなしに関係なくきちんと行間をそろえた本を作ることができる業者もいるようです。


     *


 書き手も、さまざまでしょう。どのような書き手がいるでしょうか?


 私自身が無名の書き手ですし、書き手の味方ですから、書き手を分類する、つまり差別することはやめておきます。


     *


 「あなたの原稿を無料で電子書籍化し、■■で販売します」とアピールする――。


 こうした業者が多いです。業者のなかでは良心的な人たちでしょう。ただし、「無料で」というのは正確な言い方ではありません。「電子書籍が売れた場合には、その売り上げの△%を徴収する」という条項のある出版契約書を、書き手とのあいだで交わすからです。


 当たり前ですよね。業者は無料奉仕をしているわけではないのですから。でも、「無料で」という言葉で、ビジネスの慣行に弱い書き手を「錯覚させる」という点では、ちょいワルというべきでしょうか。


 ただ、自らが電子書籍化した本が、いつか売れるだろうという夢をいだいている点では、書き手同様に、ナイーブでありロマンチストだと言えるでしょう。(※英和辞典で、naïve を引いて、その意味を確かめてください。)なぜなら、無名の著者が出した電子書籍は、まず売れないからです。


     *


 中には、ナイーブどころか確信犯的な悪質業者もいます。その手口は次のようなものです。


 電子書籍は薄利多売が原則ですから、片っ端から小説家志望者に声を掛け、出版契約書を押しつけます。つまり、「無料」や「書籍化」や「作家デビュー」や「販促や宣伝もバッチリ」などという言葉で誘い、作家になりたい人をどんどん、かき集めるのです。そして、原稿を「無料で」電子書籍化して電子書籍取扱店や自社のサイトで販売します。


 そうしておいて、著者自身が一生懸命に知り合いなどに呼びかけて電子書籍を売った利益を、丸ごと手に入れます。どういうことかと申しますと、印税の振込に関し、たとえば「但し、振り込み金額が1万円に満たない場合には次回に繰り越すものとする」という契約書の文言を実行するわけです。


 電子書籍の販売価格は安いですね。薄利多売が原則です。とはいうものの、契約で定められた著者の取り分(印税)が蓄積されて、「1万円」(たとえば、です)を超えることはまずないと考えられます。たとえ超えたとしても、著者には事実上正確な売り上げを確認する方法がないのと、業者は嘘をつくという性悪説に立てば、著者が然るべき印税を手にすることはないでしょう(もちろん、良心的なというか、契約をきちんと履行する業者もいるでしょうが)。


     *


 こうした条件の下で、業者が多数の書き手と契約し、法律や世渡りに無知な書き手たちをおだてて多数の本を作れば、「ちりも積もれば山となる(※「ちり」は失礼な言い方です。ごめんなさい)」ということわざ通り、そこそこの利益になるでしょう。専属の著者をたくさん抱えて、契約の有効期間をたとえば5年間にすれば、そこそこの利益どころか、かなりの金額になるはずです。名指しませんが、現にそうした方法を実践しつつある零細企業があります。


 目安としては、印税が本の60%未満で、印税の振り込み金額が3千円以上、電子出版契約期間が1年以上(1年ごとの更改ならいいでしょう)の業者は、要注意だと思います。これは業者にとってはかなり厳しい条件ですが、私はこれくらい厳しくしないと、安易なお金儲けを企む業者が増加する歯止めにはならないと考えています。


「そんな条件じゃ、やってられないよ」という業者の声が聞こえるようです。そうなのです。上記のような条件で、書き手をサポートする業者など要らないのです。「ブクログのパブー」のように業者は販売と課金に重点を置き、電子書籍の作成はブログ感覚でできるような方法を書き手に提供すればいいのです。電子書籍の作成についてですが、書き手が自分で作成できるソフトが近いうちに登場するでしょう。


 書き手が求めているのは、もっと正確に言えば、書き手が本当に必要とするのは、販売・課金を代行するエージェントなのです。それと宣伝を代行するエージェントが不可欠ですが、宣伝については後述します。


     *


 業者の示す出版契約書に出版権だけでなく独占的な販売権がある場合には、そうした権利の意味をよく考える必要があります。


 というのは、業者に独占的な販売権を握られれば、契約書に明記された期間中(上で述べたように長いところでは5年間という例もあります)、書き手の作品は業者にいわば「人質」として取られるからです。


 さらに条件のいい他の業者に販売を依頼することも、あるいは自分の作品に加筆や改稿したくても、できないという意味だからです。


 契約はシビアなものですから、契約書は慎重に読みましょう。自分に不利な文言があれば、異議を唱える勇気とプライドを持ちましょう。


     *

「1編につき、OO円で電子書籍化し、■■で販売します」と宣伝する――。


 これは、上述のナイーブな業者をもっとリアリストにした感じですね。「どうせ、この電子書籍が売れるわけはないのだから、先にお金をもらっておこう。あとは知らない」ということですから。


     *


「1編につき、OO円で電子書籍化し、■■で販売します。宣伝もします」と宣伝する――。


 これは、「電子書籍が売れないのは当然?」という、この文章のタイトルにもかかわってきますが、業者はどうやって「宣伝する」あるいは「販売促進をする」のでしょうか?


 本気で「宣伝する」気でいる業者であれば、上述の naïve ではないでしょうか? 逆に、「宣伝する」気は全然なく、書き手にアピールしているとすれば一種の、いや立派な詐欺ですね。


 裁判にかければ、「宣伝する」という条項の不履行により、書き手側が勝利するでしょう。実は私自身、裁判の寸前までに至った経験があります。裁判の前に、私が勝ちましたけど。


     *


「無料で電子書籍化し、■■で販売します。宣伝もします」と宣伝する――。


 この例が、もっとも多いケースだと思われます。


 先ほども書きましたが、どうやって宣伝をするのでしょう。ツイッター、ブログ、メール、ホームページ、メルマガ、SNSぐらいが考えられます。今挙げた6つの手段は、業者だけでなく、書き手もしなければならないでしょう。


 書き手側から考えれば、書くことに専念できなくなる恐れがあります。これは、すごくつらいです。私の場合には、「なんで、こんなことをしているんだろう」とつい考えてしまい、死ぬほど悲しくなります。もちろん、宣伝が楽しいとおっしゃる書き手もいるにちがいありません。


     *


 私の体験から申しますと、


宣伝するのは、めちゃくちゃ難しい


です。


半端じゃなく難しい


です。というか、


「難しい」ではなく「不可能に限りなく近い」


というのが、私の感想というか実感です。


 買ってくれるのは、著者の名前を知っている家族、親戚、友達、知り合い、仲間くらいでしょう。でも、購入者が内輪だけではビジネスとは言えません。


 では、どうしたらいいのでしょう?


(ちなみに、原稿の電子書籍化も販売も、無料で簡単にできるサイトがあります。上述の「ブクログのパブー」です。ここを利用すれば、上述の業者に依頼する必要はありません。)


     *


 紙の本で考えてみましょう。


 みなさん、本を買ったことがありますよね。本を選ぶときの基準は何ですか? 著者名や推薦者名(書評者名も含みます)や出版社名では、ないでしょうか。つまり、


名前


です。


コンテンツ(本の内容)の良し悪し


は、購入のさいの基準にはなり得ません。無名の著者の書いた本のコンテンツを知るのは、読者が本を買った後のことです。読んでみないことには、中身の良し悪しはわかりません。


 つまり、読者は「冒険」をするのです。当たりか外れかの賭けです。あえて、そうした賭けにのぞむ物好きな人は、まずいないでしょうね。紙の本に比べ、電子書籍がかなり安くてもです。


     *


◇◇で◆◆さんが「おススメ」していた


から買った、という場合もありますね。そのさいにも、「おススメ」している◆◆さんは著名人でなければなりません。メジャーな人と言ってもいいでしょう。あるいはカリスマ性を持った人や、「時の人=今が旬な人=一時的に名の売れている人」とも言えそうです。


「◇◇」も、メジャーでよく名の知れたメディア(テレビやラジオの番組・CM、新聞や雑誌のコラム・書評・広告、セレブの発言やブログなど)でなくてはならないでしょう。そこから口コミが発生すれば成功です。


     *


 最近では、「書店員さんのおススメ」といった漠然とした、宣伝・販売促進が流行っていますね。


 たとえ無名であっても「書店員」という職業名が、上で述べた著名人と同じくらいの力を持っていると言えそうです。やはり、


名前の力


です。


     *


 勘のいい方だと、もうお気づきになったと思いますが、



電子書籍が売れないのは当然?


というこの文章のタイトルの答えが出たようです。


 無名の書き手の電子書籍を出しても売れないのは、



書き手が無名


だからです。売れないのは当然なのです。


 紙の本であれ、電子書籍であれ、著者が無名であれば、宣伝や販売促進のしようがないとも言えるでしょう。特に電子書籍は薄利多売が原則です。そのような商品に本腰を入れ、大金を投じてまで宣伝する人がいるでしょうか?


     *


 では、どうすればいいのでしょうか?


 現在大不況下にある、既存の出版社の苦しみを考えてみましょう。


 紙の本でさえ、売れないのです。事態はかなり深刻なようです。


 電子書籍は紙の書籍より、ずっと安く作成し販売できるといっても、著者が無名であれば売れるわけがない、ということですね。


 先ほど、書き手が必要としているのは販売・課金の代行業者であると書きました。


 さて、無名の書き手の作品を、書き手に代わって宣伝してくれる業者など成り立つでしょうか?  宣伝だけならできます。宣伝が成果をあげるか、となると話は別です。まず無理でしょう。


「いや、できます」と確約した業者は、訴訟を覚悟しなければならないと考えられます。つまり詐欺で訴えられるということですね。現に、紙の本で、そうした訴訟が跡を絶たないのは、みなさんご承知の通りです。


     *


 無名であれば、電子書籍を出しても売れないのが当然――。じゃあ、出しても無駄? 徒労? 自己満足?


 答えは、イエスにかなり近い感じですね。


 そうした厳しい事実と絶望的な現状にお気づきになった方々が、このところ続々増えているのを肌で感じています。


 大金を投じて紙の本で自費出版を体験し絶望された方々よりは、お勉強にかかった金額がうんと低かったのが、せめてもの救いでしょうか。


     *


 さて、どうすれば無名から有名になれるのでしょう?


 小説であれば、既存の新人賞や文学賞に応募して入賞し名を売る以外に方法はなさそうです。


 何か大事件を起こして有名になったら、などという不穏な考えが頭をかすめました。何らかのかたちで名が知れてしまうという事態ですよね。犯罪、スキャンダル、事故、事件、被災……。こうしたものでさえ、マスコミやメディアは利用します。


 ネット上でもたちまち拡散します。たとえ、無名の人であっても、です。こういう現在の社会の仕組みを逆手に取るということができるといいのですが、まさか何かをしでかすわけにもいきません。


 このようなかたちで意味で有名になれば、手記を書けば売れるでしょうし、エッセイやコラムを書いても異色の書き手(要するにキワモノですけど)の作品として売れるでしょう。


 もちろん、不穏ではいけませんね。ただ、何らかの形で自分の露出度を高める必要があるのは確かでしょう。


 名を上げるために文学賞を目指すとするなら、紙の本であろうと電子書籍であろうと、同じじゃありませんか。


     *


 どうでしょう? 目が覚めましたか?


 孤独に耐えて臥薪嘗胆・努力・精進する――。


 仲間と切磋琢磨する――。


 文学賞獲得を目指す――。


 従来どおりの地味な話に落ち着きました。事の本質は変わらないみたいです。


【※以上の文章は、執筆当時のデータに基づいています。現在は環境や事情が変わっている箇所もありますので、ご注意願います。ちなみに、上述の「ブクログのパブー」の運営会社は変わり、パブーはリニューアルしています。】


【※この記事は、新生パブーにある私のマイページに置いてある『電子書籍って何?』という電子書籍に収録されています。】



#エッセイ

#電子書籍

#出版


 

このブログの人気の投稿

あう(1)

かわる(8)

かわる(3)