うつせみのたわごと -12-

星野廉

2020/09/24 12:00


 げん――。きになることば。からからきた、ことば。ことのはをもちいて、うらなうというわざがある。おおむかしにも、あったらしい。むかしのほうが、さかんだったかもしれない。ことのはは、うつつとおもいをむすぶ。うつつでめにする、ものやことやさまの、かわりをつとめるのが、ことのはのやくめでもある。


     *


 そのかわりのしくみは、どれほどしんじてよいものなのか。まぐれというべきか。それとも、なるべくしてなる、たしかなものなのか。ひとのちからをこえた、なにものかのこえを、そのものになりかわって、ひとびとにつたえるものがいたという。いまも、いる。なにか、あるいは、なにものかが、のりうつるのだ、というはなしもある。あやしい。


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 てんから、ひとすじのつるがたれている。そのつるをにぎり、いのちがけで、すがりついているひと。そんなさまを、こころにえがいてみよう。つるを、いとと、かんがえてもいい。ぶらさがる。ぶらぶら、ゆらゆら。ひとは、いとと、かぜに、みをまかせるしかない。まかせる。まかす。まける。ひとは、おちないように、ひたすら、いのり、ねんじるしかない。こうしたさまは、ひとがいきているさまと、にている。


     *


 ひとこそが、このほしのあるじだと、かんがえているものはおおい。おごりたかぶっているものは、かずしれない。それでいて、かみ、かみがみ、ほとけ、まものがいると、おそれおののきながら、しんじているものも、かずしれなくいる。いまはなきひとたちのたましい、おのれのとおいおやたちのたましい、くさきややまなどにやどる、たましいやちからを、しんじるものたちもおおい。


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 うつせみにある、ひとのちからをこえた、なにものかをおそれ、うやまう。わざわいがおきたときには、なにものかが、いかっているしるしだとかんがえる。そのいかりをしずめるための、すべにおもいをめぐらす。いのる、あがめる。いけにえ、そなえものをさしだす。そうしたおこないをする、くろうとがあらわれた。そのみちの、くろうとたちは、おのれは、ひとのちからをこえたもののかわりだという。あやしい。いかがわしい。さきに、いったもののかちか。


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 こわいことは、ほかのひとにまかせよう、とかんがえたものもいたにちがいない。ともあれ、そのみちのくろうととは、どのようなひとか。まぼろしやゆめをみるのに、なれているひと。なにかや、なにものかに、なりきりやすいひと。なりきりがうまいひと。つまりは、かわりをつとめるのに、たけたひとということ。くろうと。げいにん。ぷろ、ふぇっしょ、なる。え、きす、ぱーと。つい、でた、からことばなり。でものはれものところきらわず。


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 いずれにせよ、かりのもの。にせたもの。にせもの。まさか、ほんものとはいえまい。いや、なかには、おのれは、かりのものやにせたものではなく、ほんものだと、いいはるものがいるし、いたらしい。いかがわしい。いかがわしすぎる。みなさま、いかがおもわれまするか。ひと、それぞれ。いわしのあたまさえ、ほんまもんになれる。ひとが、ほんまもんになって、どこがわるい。そう、のたまう、あつかましいものがいても、おかしくはない。いや、おかしいか。


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 ゆるしがたいものは、とらのいをかりる、やから。とらのいをかりて、ほかのひとたちをおどす、やから。いをかりれば、らく。すべてのひとは、なにかの、あるいは、だれかのいをかりながら、いきている。らくだから。らくをしたいというおもいは、だれにもある。このあほにも、たっぷりある。でも、やりすぎはよくない。ひとのなかには、なにかと、やりすぎているひとがおおすぎる。また、このほしにすむ、いきもののなかで、ひとは、ひときわ、やりすぎている、おそらくゆいいつのいきもの。


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 くいすぎ、のみすぎ、あやめすぎ、たたかいすぎ、きそいすぎ、もちすぎ、ほしがりすぎ、かざりすぎ、ひろげすぎ、ぬすみすぎ、まずしきものととめるものとのさのひらきすぎ、よごしすぎ、すてすぎ、しりすぎ、わけすぎ、でっちあげすぎ、うそのつきすぎ、かんがえすぎ、ゆめのみすぎ、まぼろしのみすぎ、くるいすぎ、ずれすぎ、はずれすぎ、うたがいすぎ、かんちがいのしすぎ、まちがいのしすぎ、とぼけすぎ、わすれすぎ、うみすぎ、ふえすぎ、おごりすぎ、ほかのいきものにちょっかいだしすぎ、いじめすぎ、あそびすぎ、つかいすぎ、もやしすぎ、こわしすぎ、しすぎ、すぎすぎ――。


     *


 こうやって、ならべて、よくながめてみると、これらを、ひとからとりのぞいたら、なにものこらないおもいがする。もしも、このほしで、さばきがおこなわれるなら、ひとは、うえであげた、かずかずのつみで、とがめられるにちがいない。いうまでもなく、このたわごとをつづっているあほも、ふくめてのはなし。


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 すぎ、すぎ、すぎ――。やりすぎ。すぎすぎ。おもわず、くしゃみがでた。すぎのおばな、すなわち、ひとでいえば、まらからこぼれる、おとこのたねの、こまかなこな。そのおびただしいこなが、こぼれおち、かぜにのって、まいちり、ひろがるとき、ちかし。はっくしょん。ぐじゅじゅ。かゆいかゆい。くすりをのべば、ぼけーっ。はらぐだし、するものもいる。お、すぎとぴー、こ。あかい、めと、すいーと、ぴーでは、めもあてられない。このしまじまで、どれだけおおくのひとが、なやみ、くるしみ、どれだけのかねをつかうことか。もとは、よかれとおもって、かってに、ひとがうえた、すぎのなえ。いまは、ひとがなえるもと。やりすぎ。すぎたるは、のちに、きづくなり。こわし。あなどれない、やりすぎ。きづいたときには、もうおそし。きもにめいじよう。


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 はっくしょん。すぎ、ひのき、ぶたくさ、よもぎ、まつ、いねの、はな。はなは、ひとでいえば、まらや、ほとなり。すぎや、いねは、べつとして、はながうつくしいのは、はちなどの、むしをひきつけ、つがうてつだいをさせるためとか。なるほど。すぐれたしくみなり。ひとのちからをこえたもののけはいを、おぼえる。ひとは、くさきのはな、すなわち、まらやほとに、ひきつけられ、かざる。なきひとに、そなえるくせもある。きりばな。いけにえ。ちょんぎって、そなえる。きる。kill。あやめて、そなえる、おとなしき、やぎやとりとおなじ。kill。きる。cut。かっと、なってきるのではない。まじめくさったかおで、きる。ほんまもんやから、こわいわー。ちなまぐさい。ひとの、みがって。このほしでは、すべてが、そんなぐあいになっている。いたしかたなし。いたしかた、あるとすれば、ひとがひとでなくなること。なくなること。それは、いたし、かたなし、やるかたなし。やはり、いたしかたなし。かなし。


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 はなしはちがうが、ひとのあそこは、うつくしいだろうか。ひと、それぞれか。いずれにせよ、ひとは、ひきつけられる。ひきつけあう。ひきつけ、あう。くさき、けものとちがい、ときをえらばず、いつでも、おーけー。なんたる、すきもの。すぎたる、すきもの。すきすぎ。くるえる、さる。ほかのいきものの、あそこをちょんぎるcruelさる。それは、それでいいのではないか。いたしかたなし。


     *


 ひとのちからをこえたものの、いをかりた、にせものに、はなしをもどそう。このあほは、そうしたえらそうなやくしゃのげいは、しんじない。ひとをこえたなにものかも、しんじていないから、そのかわりのものも、こわくない。だから、あがめたてまつる、ぎりもない。ひと、それぞれ。ちなみに、このあほはしんでも、はかはなし。とむらいも、ほねひろいも、はかもいならない、とかいたかみがある。はんこまで、おしてある。はかなし。のこったもちものは、おかねにかえて、めぐまれないこどもたちにさしあげる、とも、かきそえてある。もうひとつちなみに、おやのとむらいも、なし。はかなし。おやも、それでいいといっている。にたもの、おやこ。ひと、それぞれ。


     *


 ぶらぶら、ゆらゆらに、はなしをもどそう。ぶらぶら、ゆらゆらとは、たとえである。ひとのありよう。いきもののありよう。このほしのありよう。このほしをふくむ、おおきなはてしなき、ば、のありよう。そうしたすべてのありようのたとえ。ゆらぎ、うごきといっても、いいだろう。ねつ、ひかりといってもいいだろう。なんとなづけても、それはひとのことわり。そうしたことのはで、さししめそうという、たくらみとは、かかわりがないと、ひとはこころえるべき。まけをみとめるべき。


     *


 まけ。おてあげ。どうにでもしてちょうだい。まいりました。ほかになんといえばいいのか。たわごとをかさねるしかない。ひとのわくのなかに、ひとがそとにむかって、なざすものはない。


     *


 ことわり。すっきり。くっきり。さっぱり。あきらか。まこと。ただしい。たしか。たとえなら、ゆるされるたわごと。にせもの、かわり、かりそめのもの、とこころえるなら、ゆるされるうわごと。ほんまもんと、ちゃうでー。まちがえたら、あかんでー。ひとのおもいや、くちからでるものを、まことやほんものなどといって、もったいぶるのは、よそう。でまかせ、でたらめ、むちゃくちゃ、めちゃくちゃ、くらいが、まっとうなひととしての、いさぎよい、よびな。みのほどをこころえた、よびな。


     *


 まぼろし、ことのは、うつつ、へり、みなもと、ものごとのおこり、まなこでみるものやことやさまのありよう、ぶらぶらゆらゆら。幻界、言界、現界、限界、原界、Gen界、眼界、弦界。すべてが、ひとのわくのなかに、おさまる。ひとのまけ。かとう、わくをこえよう、などという、むだなほねおりは、やめよう。できっこない。こころざしを、たかくもちたいものは、ぶらぶらゆらゆらに、さからうのではなく、もてあましているちからを、めぐまれないひとたち、よわきひとたちをたすけることに、むけよう。このたわごとをつづっている、ものぐさで、いくじのないものは、みのほどをわきまえ、おろおろうじうじいきよう。


     *


 てんからたれている、いとだけは、しっかりと、にぎっていよう。あとは、ひと、それぞれ。


     *


 このあほのすきなあそびは、さいころをふること。これ、たとえ、ですねん、ねんのため、ゆーときます。ことのはという、さいころを、えいやっつ、とふる。わくわく、どきどき。ぽろりとでる、め。でるにまかせる、でまかせ。とはいえ、ことのははいとしい。けなげに、みぶり、めくばせをおくってくれる。まな、かな、かわいい。からことばのかずかず、これまた、いろけあり。ことのは。ふみ。へたながら、こえにだして、うたうのも、よし。ただ、ぶつぶつ、つぶやくのも、よし。じづらにながめいるのも、よし。


     *


 ことのはとのであい。ひととのであい。ものやことやさまとのであい。であう。このよに、でたために、あった、ゆかりをすなおによろこびたい。めでたいものとして、うけとめたい。であい。あい。ずらしてみよう。さいころをふり、でまかせに、であってみよう。さいころは、じびきのたとえなり。えいやっつ。ころりじゃなくて、ぺらぺらめくる。ど・れ・に・しようかな。


     *


 あい、会い、合い、遭い、遇い、逢い、藍、哀、相、間、eye、I、愛。こんなんでましたけど――。やっぱり、愛。



【追記 上記の戯言につづられていることばたちに身をまかせてください。どのようにも取れると思います。意味や解などありません。というか、無数にあるでしょう。そうやって、たわむれてみませんか。参考としての、ことわりをお望みの方は、グーグルで、 "うつせみのくら" "虎の威=衣" 、 "うつせみのくら" "偶然性" "整合性" 、 "うつせみのくら" "宙ぶらりん" 、"うつせみのくら" "あう" "出あう" 、"うつせみのくら" "マラルメ" "サイコロ" という具合にダブルとトリプルのキーワードで、5回検索してみてください。


 そのさいには、"○○" と括弧でくくるのをお忘れならないように、ご留意願います。今、挙げた5組のキーワードを、それぞれそのままコピーペーストして検索なさるのが、てっとり早いかもしれません。ヒットするのは、長い文章が多いと思います。関係ありそうなところだけ、拾い読みしていただくだけで十分です。こんな戯事にお付き合いくださる方がいらっしゃれば、うれしいです。】


【注: 現在は「うつせみのくら」という過去のブログ記事を再録したサイトがないので、上記の検索は意味をなしません。お詫び申し上げます。】


     ■


【解説】「こんなことを書きました(その20)」より

*「うつせみのたわごと -12-」2010-02-13 : テーマは、「つる・つるされてゆらぐ・げん・弦」という言葉とイメージをもとに世界をとらえる弦界です。ヒトが天から垂れた「つる・弦」または糸につかまって吊るされて、ぶらぶらゆらゆらしている。すべてを何ものかに任せている。この記事では、「任せる・負ける」という身ぶりが大きな役割を演じています。ヒトの力を超えた「何物か・何者か」の存在が前提になっているにもかかわらず、ヒトはそれを知り得ないという立場で話を進めています。ヒトの力を超えた「何物か・何者か」の威を借りる人たちを批判しています。言葉遊びから、ヒトが「やりすぎていること」を列挙していますが、それもまた、人知を超えた現象として描いています。つまり、最終的な善悪さえ断じる力はヒトの側にはない、まして裁く力などないという意味です。「任せる」から「賭ける」へと話が移り、「出あう・出あい・あい」という圧倒的な偶然性(※もちろん、やらせです、偶然性を装っている=演じているだけです)の中で、「愛」を出すという、めちゃくちゃなこじつけで終わっています。標準的な表記に直したキーワードは、「ぶらさがる」「揺れる」「身を任せる」「祈る・念じる」「驕りたかぶる」「代わりの者」「偽者」「生贄」「身の程を心得る」「サイコロを振る」です。直接書けなかったキーワードは、「代理(人)」「シャマニズム(シャーマニズム)」「シャーマン」「まつりごと・政・祭事・奉事」「予言(者)・預言(者)」「託宣・神託」「官僚主義」「議会制民主主義=代表民主制=間接民主制」「ジェームズ・フレイザー」『金枝篇』「文化人類学」「ステファヌ・マラルメ」「花=生殖器=性器」です。



※この記事は、かつてのブログ記事に加筆したものです。https://puboo.jp/users/renhoshino77



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