うつせみのたわごと -3-
星野廉
2020/09/23 13:58
なぞ。なにかわからない。だから、なぞる。くうにゆびでなぞる。いま、ここに、ないからなぞる。つちやかべに、えをなぞる。あるいは、かく。ひっかく。なすりつける。ぬる。そうして、おもう。おもいをめぐらす。おもいをえがく。
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なぞ。なにかわからない。だから、なぞる。くうにおもいでなぞる。いま、ここに、ないからなぞる。つちやかべやものに、じをしるす。うちわでしかわからない、ことばともんじ。よそものには、おしえない、なぞ。うちわだけのなぞ。やがて、それがなかまをしばるようになる。おきて。やぶったものは、とがめられ、むくいをうける。ことばがちからをえる。ひとにさしずし、もうしつけるようになる。
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しる。しるをかける。つばをつける。なづける。なつける。てなずける。なわをはる。なわばり。それでも、なつかない。このほしをてなずけるのは、むずかしい。どんななをつけても、どんなにながふえても、なつかないものがある。それをわすれる。それをしらない。だから、なつけたものとする。または、このさき、なつくものとする。いのり。ねがい。おまじないのことば。しるしるちしる、しるかけて、つばかける――。ないから、かける。むなしいふるまい。
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なつかしいところ。いごこちのいいところ。ただしいものにみちたところ。おのれのよりどころ。ささえ。みなもと。おもいのうちで、つねに、かえっていくところ。うち。なか。いえ。むら。むれ。もどることのできる、ちとつちがあるところ。なかまや、はらからや、おやのいるところ。だが、かえれないところがある。なつかしいが、もどれないところ。とおいむかしにあった、といわれるところ。あったと、されるところ。そこは、うつつには、ないからこそ、あるとしんじる。よそもののちをながしても、まもるべき、つちとち。みなもととは、ないにわ。ないにわを、いのちをかけてしんじる。むなしいふるまい。かなしいさが。
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みなもと。にわ。かえれない。うつせみにはないから。うつお。うつせみのから。うつせみのあな。うつせみのな。うつせみのあなた。うつせみのないにわ。ひろいひろいにわ。ほしぼしのうかぶにわ。はて。ないはない。こころとおもいにあるだけ。しんじるしかない。な。ことのは。
【追記 上記の戯言につづられていることばたちに身をまかせてください。どのようにも取れると思います。意味や解などありません。というか、無数にあるでしょう。そうやって、たわむれてみませんか。参考としての、ことわりをお望みの方は、グーグルで、 "うつせみのくら" "なぞる"、"うつせみのあなたに" "おもい" 、 "うつせみのくら" "領る" 、 "うつせみのくら" "名付ける" 、という具合にダブルのキーワードで、4回検索してみてください。
そのさいには、"○○" と括弧でくくるのをお忘れならないように、ご留意願います。今、挙げた4組のキーワードを、それぞれそのままコピーペーストして検索なさるのが、てっとり早いかもしれません。ヒットするのは、長い文章が多いと思います。関係ありそうなところだけ、拾い読みしていただくだけで十分です。こんな戯事にお付き合いくださる方がいらっしゃれば、うれしいです。】
【注: 現在は「うつせみのくら」という過去のブログ記事を再録したサイトがないので、上記の検索は意味をなしません。お詫び申し上げます。】
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【解説】「こんなことを書きました(その20)」より
*「うつせみのたわごと -3-」2010-02-03 : テーマは、ヒトが言語を獲得したこととテリトリーと知との絡み合いです。これまで何度か論じてきたことを、大和言葉系の語だけで語ろうとすることのおもしろさを感じました。スリリングな体験でした。標準的な表記に直したキーワードは、「謎」「なぞる」「かく・描く・掻く・書く」「思い」「掟」「しる・知る・領る・汁」「名づける」「手なずける」「なわばり・縄張り」「ち・地・知・血」「懐かしい所」「帰る」「戻る」「源」です。直接書かなかったキーワードは、「動物行動学」「縄張り行動」「マーキング行動」「闘争本能」です。
※この記事は、かつてのブログ記事に加筆したものです。https://puboo.jp/users/renhoshino77
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