うつせみのたわごと -6-
星野廉
2020/09/24 07:56
げん――。きになることば。からからきた、ことば。ことだまは、おそれおののくものに、はたらきかける。おのれのてだてとしようと、おもわくをもって、ちかづくものをあいてにすることはない。このしまじまにくらすもののことばだけにやどると、だれがいっただろうか。ことばは、ひとをえらばない。たまも、ひとをえらばない。ひとしいのが、ひと。ひとは、みなひとしい。ことばも、ことごとくひとしく、ことなることはない。ことなるのは、かたとかたちだけ。ことばは、ひとしく、ひとにはたらきかける。
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げん・言。げんかい・言界。のっぺらぼう。ぺらぺら。ひらひら。はっぱ。ことのはし。もの、こと、ありよう、みさかいなくはりつく。もっとも、はりつけるのは、ひと。おととして、こえとして、はなち、はなすのも、ひと。もんじとして、しるしとして、かき、ひっかき、ぬり、こすりつけるのも、ひと。なぞり、えがき、ほりきざむのも、ひと。このほしでひとがきえても、きずあととして、のこる。いしころのように、ものとしてのこる。
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のっぺらぼう。ななし。おと、こえ、かたち、もんよう。よむのは、ひと。うたうのは、ひと。ことこまかに、ことわけするのも、おそらく、ひとだけ。げんかい、幻界、言界。おなじ、おと。そうよむのは、ひと。おなじ、おと。おそらく、おなじおもい。すくなくとも、ちかいおもい。そのあわいはあわい。だから、おもいはおもい。さまざまなおもいが、おなじおとにかさなる。おびただしい、おもいとおとが、かさなりあう。だから、おもい。
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のっぺらぼう。ぺらぺら。べらべら。さわがしい。やかましい。だが、おそらく、おとなしが、まこと。だから、つまるところは、おなじ。おとなし、おんなし、おんなじ、おなじ、とずらす。これ、でまかせ。しゃれ、じゃれ、ざれ、ざれごと、たわごと、かたこと、ところがす。ころがる、たま。たまたま、たま。たまをころがす。じびきにたより、からことばのちからをかりて、ころがす。げん・幻・言・現・限・原・源・元・Gen・眼・弦・減・絃――。ま・真・眞・間・魔・麻・摩・目・身・ma――。やはり、おもい。まことのかたこと。かたことのまこと。ことたま。ことのはしに、たまをみいだし、はたらきかけられるのは、ひと。ひとりずもう。ひとりてんか。ひとりごと。ひとりわらい。ひとりしばい。ひとりじめ。このほしにすむいきものたちのなかで、ひとりだけ。
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ことばは、すじ。くせもある。うろうろ、おろおろ。なまり、ころがり、うつろい、ふみはずし、ずれる、いや、ずれまくる。ずれることこそがつとめのように、ことばは、ずれる。おもいとことばは、ずれている。どうしようもなく、ずれている。なぜだろう。どういうわけか、ひとは、ずれた。さるから、はずれた。あたまのなかで、なにかがずれたというはなしもある。ひとにひとしくそなわっている、といわれている、ことば。ひとをまねるかのように、ことばは、ずれる。ずれまくる。
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ことばは、おもいをうつす。おもいも、ことばをうつす。つねに、ゆれ、ゆがみ、ずれながら、うつし、うつり、うつろう。それでいて、ことばは、まこととまっとうさをめざす。ところが、ことばは、まことはいうまでもなく、ほんものにも、にせものにも、まがいものにすら、なりそこねる。ひとのおもわくや、たくらみや、いのりや、ねがいをよそに、ことばはなにかのかわりとして、ある。というか、なにかのかわりとしてしか、ない。せめて、こういいたい。けなげに、なにかのかわりをつとめるのだと。いとしい。
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ことばは、いとしい。みからでたもの。もとは、いき。いきるのいき。かく、きざむ、ぬる、しるす、つづる。もんじは、あとのはなし。もとは、あなからでるもの。あかんぼうや、うんちのごとく、ことのはは、いとしい。どれも、いきんで、あなからだすもの。あなどれない。だからこそ、いとしい。でたあとは、はなれる。かなしい。だが、なにかにはたらきかける。ちからをおよぼす。うごきをさそう。とはいえ、うごくのは、ひと。うれえぬわけにはいかない。このほしのいのちと、ゆくすえさえも、ひとのはく、ことばのちからにかかっている。ひと。ずれた、さる。はずれた、さる。くるえる、さる。むごい、さる。あやうい、さる。むやみにあやめる、さる。おやまの、さる。
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はなに、ことばありき。はなに、ずれありき。すべては、そこからはじまった。ことのは。ことのはし。ことのはじまり。
【追記 上記の戯言につづられていることばたちに身をまかせてください。どのようにも取れると思います。意味や解などありません。というか、無数にあるでしょう。そうやって、たわむれてみませんか。参考としての、ことわりをお望みの方は、グーグルで、 "うつせみのくら" "言霊" "嘲笑う" 、 "うつせみのくら" "ニュートラル 、"うつせみのくら" "経路" 、 "うつせみのくら" "代理の仕組み 、という具合にダブルとトリプルのキーワードで、4回検索してみてください。
そのさいには、"○○" と括弧でくくるのをお忘れならないように、ご留意願います。今、挙げた4組のキーワードを、それぞれそのままコピーペーストして検索なさるのが、てっとり早いかもしれません。ヒットするのは、長い文章が多いと思います。関係ありそうなところだけ、拾い読みしていただくだけで十分です。こんな戯事にお付き合いくださる方がいらっしゃれば、うれしいです。】
【注: 現在は「うつせみのくら」という過去のブログ記事を再録したサイトがないので、上記の検索は意味をなしません。お詫び申し上げます。】
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【解説】「こんなことを書きました(その20)」より
*「うつせみのたわごと -6-」2010-02-07 : テーマは、「言葉・げん・言」という言葉とイメージをもとに世界をとらえる「言界」です。言葉が代理でしかないこと、ヒトには言語を習得する先天的な能力が備わっているらしいこと、言葉はヒトの思いや感情の表出や伝達を担っていること、言葉がヒトの知の体系をつくり上げる支えとなってきたこと、について論じています。こうしたことがらを、大和言葉を多用しながら平仮名だけで記述する場合と、そうした語の使い方によらない書き方をした場合とを比較すると、つづる形態がつづられる内容に大きな影響を及ぼすことがよく分かる。そんな気がしました。簡単に言うと、書き方が書く内容を左右するということです。標準的な表記に直したキーワードは、「のっぺらぼう」「事の端・言の端・言の葉」「言霊」「思いは重い」「ひとり言」「すじ」「ずれ」「うつす・写す・移す・映す」「息・生きる・息る」「出る」です。直接書かなかったキーワードは、「表象」「代理」「ニュートラル・匿名性」「ノーム・チョムスキー」「言語能力・competence」「経路」「ミメーシス」「コミュニケーション」「ヒトの言語獲得」です。
※この文章は、かつてのブログ記事に加筆したものです。https://puboo.jp/users/renhoshino77
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