テリトリー(7)

星野廉

2020/09/20 12:38 フォローする

 昔の話です。「仏文学は澁澤龍彦(しぶさわたつひこ)、独文学は種村季弘(たねむらすえひろ)、英文学は由良君美(ゆらきみよし)」。そんなふうに、一部の人たちが口にしていた時期がありました。共通するのは、博覧強記というところでしょうか。在野、アカデミックな場と、身を置く場所は違いましたが、3人がそれぞれ持ち味を生かしながら、いい仕事をなさっていました。


 3人のなかでは、由良君美がいちばん一般的な知名度は低かったような気がします。ただ、専任の大学教員であったために、アカデミックな世界では、著名な方でした。現在、表象文化論というテリトリーがあるのは、由良君美の門下、あるいは、その講義を聞いた人たちがいたからだ。そう言ってもいいように思います。


*『脱領域の知性』


という邦題の訳書を1972年に上梓しています。著者は、


*ジョージ・スタイナー(George Steiner)


という人で【※スタイナーについては、「翻訳の可能性=不可能性」で、直接名指しはしていませんが、「再占領」絡みの文芸評論家として触れています。なお、「ふーこー・どぅるーず・でりだ(その2)」のなかでは、種明かしをするかたちでスタイナーの議論を紹介していますので、ご興味のある方はご一読ください。】、原題は、


*Extraterritorial


です。スティーブン・スピルバーグのSF映画で邦題が、


*「E.T.」


という作品がありますが、その原題は、


*E.T. the Extra-Terrestrial


です。


 似てますよね。


*Extraterritorial は、「学問の領域を超えて」という意味


であり(※治外法権= extraterritoriality の形容詞形でもあります)、一方の


*Extra-Terrestrial は、「地球の外の」という意味


ですね。もっとも the が形容詞につくと、英語では「○○な人たち」とか、「○○なものたち」という複数名詞みたいに扱われますから、


*the Extra-Terrestrial は、「地球外の生物たち」という意味


になりそうです。


 いい言葉だと思います。


     *


 唐突ですが、


*脱構築


という言葉がありますね。英語では、


*deconstruction


です。ドイツのハイデガーの著作経由で、ジャック・デリダが、déconstruction (デコンストリュクシオン)と仏訳=造語したのが、英語になったらしいです。この語に「脱構築」という訳語を当てたのも、由良君美だと聞いたことがあります。


 海外の新しい潮流で、ものになりそうなものを嗅ぎだす優れた才能の持ち主だったことが、うかがわれます。先見の明があった人だったと、今になって思います。


*extraterritorial


*extra-terrestrial


*deconstruction


と並べてみると、言葉にし難い感慨を覚えます。うーん。あえて言うなら、


*ヒトという種(しゅ)にではなく、この惑星=テラ=地(ち)にも、


少しは希望があるみたいだ、という感じでしょうか。


 一方、知(ち)に、希望があるかどうか、これははなはだ疑問です。それよりも、血(ち)のほうが心配です。当初の予感通り、このシリーズは、きな臭い話で終わりました。


 抑うつ症状が悪化しているので、きょうはここで止めておきます。処方されている頓服のお薬を、これから飲みます。薬漬けの状態では、記事は書きたくないのです。訪ねてきてくださった方に、こころよりお礼を申し上げます。どうも、ありがとうございました。


 たまには、これくらいの長さ=短さの記事もいいですね。


 懐かしさ 思いに耽るも テリトリー



※この文章は、かつてのブログ記事に加筆したものです。https://puboo.jp/users/renhoshino77



#散文

 

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