言葉は「まぼろし」である。言葉は「まぼろし」のようなものである。

星野廉

2020/10/11 09:55


 言葉を比喩つまり「他のものに置き換える」作業を利用して「分けて」みましょう。隠喩でも直喩でもどちらでもいいと思います。隠喩、直喩の順で例を挙げてみます。


 言葉は「まぼろし」である。


 言葉は「まぼろし」のようなものである。


 上の二つの文にある「まぼろし」の代わりになりそうなものを、思いつくままに並べてみます。鏡、空気、水、こころ、道具、武器、衣装、生き物、流れ、波、悪魔、愛、精神、魂、ゲーム、パズル、海、山、石、麻薬、鎖、神からの贈り物、遺伝子、火、炎、光、灯り、影、潤滑油、お金、貨幣、財産、怪物、宝物、神との契約、遺産、魔法、催眠術……。


 こんなふうに言葉を「定義する」つまり「分ける」ことも、比喩を使えばできそうです。「悪魔の辞典」とかいう本を思い出します。


 個人的な感想ですが、隠喩のほうが直喩よりも、説得力があり語呂もいいような気がします。「言語は○○のようなものである」という直喩法を用いた自信のなさそうな言い方に比べ、「言語は○○である」と隠喩で、ずばっと言い切ってしまうほうが、迫力があるように感じられます。怖いことです。何でも当てはまるように思えてきます。


 現代詩や、商品・サービスのコピー、プロパガンダ、スローガンみたいです。「言葉は蠍(さそり)である」・「言葉は君の背中にある傷跡である」・「言葉はキリマンジャロのふもとに咲くタンポポである」・「言葉は爆発である」・「言葉は発情である」・「言葉は民族の生命線である」という調子です。


       〇


 比喩、特に隠喩は要注意だという思いを強くしました。迫力や説得力があるだけでなく、比喩だということを忘れさせてしまう危険性を備えているような気がします。


 話がいつの間にかすり替わっている。そんな状況を経験なさったことがありませんか。自分が話したり書いたりする時にも、他人の話を聞いていたり書いたものを読んでいる場合にも起こりそうです。


 言葉は何とでも言えます。比喩はレトリックであり、言葉の綾とも言うらしいのですが、説得力があるため、その語り口で、つい騙(かた)られる、つまり騙(だま)されてしまう恐れを感じます。語る行為は基本的に騙ることなのですが、語るヒトがその仕組みを利用して、他のヒトを故意に騙す場合もある、という意味で怖いです。


       〇


 言葉と関係ありそうな言葉を並べてみましょう。でまかせに、列挙していきます。言葉の特性を尊重し、「正しい」対「正しくない」という、いかがわしく、うさんくさい2項対立とは、なるべくかかわらない形で、いかがわしく、うさんくさいリストをつくってみます。


「ことば・コトバ・言葉・詞・辞」「ことのは・言の葉・言の端・事の端」「こと・言・事・異・殊・如」「は・葉・端・歯・派・刃・波・八・破・播」「げんご・ごんご・言語」「ご・語・悟・誤」「いう・言う・云う・謂う」「はなし・話・噺・咄」「話す・放す・離す」「はなつ・放つ」「はっする・発する・ハッスル」


「発す・破す」「かたる・語る・騙る・かたり・語り・騙り・カタリ派」「よむ・読む・詠む」「かく・書く・描く・掻く・画く・欠く・掛く・懸く・舁く・駆く・繋く・繋ぐ・構く・構える・番える」「つたえる・伝える・つたう・伝う・繕ふ・つた・蔦」「つげる・告げる・継げる・接げる・つぐ・告ぐ・継ぐ・接ぐ・次ぐ・亜ぐ・つぎ・次・継・注ぎ」「となえる・唱える・称える・となふ・唱ふ・称ふ・調ふ」


「いわく・曰く」「のたまう・宣ふ・のたまう・たまう・賜う・給う・のりたまふ・のりと・祝詞」「のる・宣る・告る・伸る・似る・乗る・載る・罵る・賭る」「のべる・述べる・陳べる・伸べる・延べる・ノベル・のぶ・述ぶ・陳ぶ・伸ぶ・延ぶ・ノブ」「しゃべる・喋る・シャベル・しゃぶる」「くち・口」「した・舌」「くちびる・唇・脣・吻・くちべり・口縁」


「もうす・申す・まをす・まうす・マウス」「さけぶ・叫ぶ」「わめく・叫く・喚く・をめく」「ほえる・吠える・吼える・咆える・ほゆ・吠ゆ・吼ゆ」「こえ・声・聲・乞え・恋え」「いき・息・意気・いきる・生きる・活きる・熱る・熅る・いきむ・息む・いく・生く・活く」「なく・泣く・鳴く・啼く」「なげく・嘆く・歎く」


「うったえる・訴える・うったふ・うるたふ・うるたう・訴ふ」「うたう・歌う・謡う・謳う・唄う・詠う・うたあう・歌合・うちあう・打合・うた・歌・唄・唱・詩・うたい・謡」「ほざく・ほさく」「ほぐ・祝ぐ・ことほぐ・寿ぐ・言祝ぐ」「よぶ・呼ぶ・喚ぶ」「なのる・名乗る・名告る」「なづく・名付く・なつく・懐く・なづける・名付ける・なつける・懐ける・なれつく・馴れつく」


 ぐちゃぐちゃ、ごちゃごちゃしていますね。無理に「分けて」、すっきりさせる必要は、とりあえず、ないと考えています。


 上記の言葉たちをながめながら、または口にしながら、いろいろな思いにふける。あたまに浮かぶさまざまな言葉やイメージや光景や思いに任せる。夢のなかでのように、ひたすら「見る」。すべてを肯定する。うんうんとうなずく。そのうち、眠ってしまってもかまわない。


 それに勝る楽しみはないような気がします。(「げん・言 -1-」より)








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