まことはまことか(後半)

星野廉

2020/09/18 12:38 フォローする

 で、話を戻します。「ま」です。


 その「ま」について、きのうからずっと考えていたと言うか、ぼーっと思いにふけっていたわけですが、ときおり口にした言葉というか「おまじない」の文句があります。


 まことはまことか。


 ここで個人的なお話をさせてください。実は、「まこと」という名前が好きなのです。「架空書評」(※「架空書評 : 奪還」が最終号です)を書いてくださった「詩人の孟宗竹真(もうそうだけ・まこと)氏」、「反・少女」 という短い小説の登場人物である「真琴(まこと)」、「奪還・ダイジェスト」という長めの小説の主人公である「真人(まさと)(※「まこと」とも読めます)」という具合です。


 なぜか、好きなのです。響き=音(おん)も、「真」という字面も好きです。その聴覚的および視覚的イメージが、こう、ぐぐっとくるのです。「ひろみ」や「かおる」みたいに、女性と男性に共通して付けられる名前だという点にも好感を覚えます。


     *


 で、「まこと」ですが、「ま+こと」「真+事」「真+言」「真+断」とも読めます=分光できます。さらに、「ずらす」なら、「事」とは「事象・物」、「言」とは「言葉・語・言語・代理・表象」、「断」とは「断る・事割る・判る・分かる・認める・認識する・理解する」と読めそうです。


 では、その「こと」の頭についている「ま」とは何なのでしょう? 例によって、出まかせを言わせてください。「ま」とは「くちぐせ・口癖」ではないかと思います。それが、きのうから考えたというか、ぼーっと思いにふけっていた末の「とりあえずの」「事務的で官僚的な」「結論」なのです。


「ま」とは「口癖」である。もう少し詳しく言うと、「まこと」という言葉の「ま」とは、ヒトという種の「口癖」である。


「アホか!」とお叱りの言葉が飛んでくる気配を感じます。「はい、アホでございます」と、泣きそうな顔をして叫んでいる自分の声と姿が頭に浮かびます。「おぬし、とちくるったな!」「はい、さようでございまする」という感じでしょうか。とちくるいついでに、さらに出まかせを言わせてください。


 まことはまことではない。


「アホか!」「はい、おっしゃるとおり、アホでございます」


     *


 順を追って説明いたします。


「ま」とは「口癖」である=「まこと」という言葉の「ま」とは、ヒトという種の「口癖」である、からいきます。みなさん、「口癖」と聞いてどんなことを連想なさいますか? 


「えーっと」「あのう」「でね」「そんでさあ」「そして」「だからあ」「ほら」「何と申しましょうか」などは、言葉に詰まった時に口にしたり、話の接ぎ穂として用いられていますね。


「要するに」「結局」「ぶっちゃけた話」「つまり」「やはり」「やっぱり」「何と言っても」「てのは」「というのは」も、説明の前置きとか、それまでの話の言い換えや総括というよりも、「えーっと」などと似たような役割を果たしている印象があります。


「すごく」「ものすごく」「きわめて」「とても」「非常に」「かなり」「そうとう(に)」「チョー」「スゲー」なんかは、意味を強めるとか、威勢をよくするとか、勢いづける、という感じでしょうか。これらに似たもので「実に」「実際」「実際問題として」「本当に」「まことに」があります。


「まことに」が出たことから、お分かりになると思いますが、最後に挙げた言葉たちは、きのうの「まことにまこと」で紹介しました、次のような偉そうで、かつ厳(いかめ)しそうでありながら、空疎でむなしい語たちに似た匂いをまきちらしています。うさん臭いのです。


 真実・真理・真言・事実・現実・実際・正確・正当・正統・正式・正常・正規・純正・明確・明晰・明白・自明・真正・真性・実に・本当(に)・本物・本質・実質・本体・正体・本性・嘘偽りのない・論理(的)・実在・実体・実態・実情・確実・究極・至高・解脱・涅槃・リアル・リアリティ・ファクト・オセンティック


 何を言いたいのかと申しますと、上記の偉そうな言葉たちは、「何か」から「はずれ・ずれ・すれ」たあげく、擦り切れてしまっていて、単なる「景気づけ=たとえばお酒=ヒトを酔わせるもの=空元気のもと=やばいお薬=ヒトの感覚を麻痺させるもの」に成り下がっているということなのです。あるいは、上の語たちには、そういうふうに成り下がる資質があるというか、その可能性が高いと言ってもいいです。空疎でむなしいとは、そうした意味です。


 で(※これって、このブログの口癖なんです)、「ま」ですが、「真下・真上・真横・真ん中・真っ先・真後ろ・真ん前・まん丸・真冬・真夏・真四角・真ん中・真っ裸・真昼・真夜中・真向かい・真っ向・真っ暗・真っ白・真っ青」などは、「すごく」「きわめて」「とても」「非常に」「かなり」「そうとう(に)」「チョー」といった言い方と同様に意味を強めるというか、景気づけの役割を本格的に担っていると言えそうです。


 一方で、今挙げた例に加えて、「真心・真顔・真名(←→ 仮名)・真面目・まとも(真面)・まっとう・真水・真人間・真に受ける・まさに・まさしく」といった言葉たちにみられる「ま」とは、さきほど列挙した偉そうで厳(いかめ)しそうでありながら、空疎でむなしい語たちに近い感じがします。ということは、やっぱり、「ま」も「何か」から「はずれ・ずれ・すれ」て、擦り切れてしまっていて、単なる景気づけに成り下がっていると言えなくもないと思われます。


 ここで言っている「口癖」とは、「何か」から「はずれ・ずれ・すれ」たあげく、擦り切れてしまっている言葉のことです。まさに、「ま」がそうなのです。


     *


 で、次に、「まことはまことではない」を説明いたします。実は、口癖のところで、半分説明してしまったようなものなのです。口癖とは、「何か」から「はずれ・ずれ・すれ」て、擦り切れてしまっている言葉のことだと書いたばかりですが、まさに、そのフレーズが「まことはまことではない」を説明しているのです。


「真実・真理・真言・事実・現実……」は、「『何か』から『はずれ・ずれ・すれ』て」の「何か」に当たります。当然のことながら、「まこと」も、「真実・真理・真言・事実・現実……」も言葉です。その「言葉=ラベル=代理=表象」が「指し示す」もの、つまり、その言葉に対応する「もの」は、「不明」です。だから、ここでは「何か」と表記しています。


 ということは、「まことはまことではない」とも言えます。レトリックの問題だと言われれば、それまでなのですが、言葉を用いる以上、ヒトは「レトリック=修辞=美辞=巧言=お飾り=言葉」を用いての「取り繕い=ごまかし=騙り」という「わな」を免れることはできません。「こじつけ=類推・でまかせ」の仕組みを基本とする、比喩や駄洒落などのレトリックという「なわ」にがんじがらめになっているのです。それがヒトの「ありよう=状態=常態」です。


 言葉とその「対応物」の間の「対応」なんて、まさにレトリック以外の何ものでもありません。「対応物・実体・メッセージ・意味・意味されるもの」などという言葉を用いて、もったいぶらずに、せいぜい「何か」と簡単に呼んでおくのが、まっとうではないでしょうか。


 このあたりのお話=与太話については、「代理だけの世界(1)」 、「代理だけの世界(2)」 、「代理だけの世界(3)」、「代理だけの世界(4)」、「代理だけ」にも書きましたので、ご興味のある方だけ、お時間のある時に、お読みいただければ嬉しいです。


     *


 という感じで、きょうの記事を終えてもいいのですが、冒頭近くでお約束したように、もう少しとちくらせていただきます。と言っても、ここまで書いてきたことを、悪態と罵倒をまじえてまとめるだけです。では、いきます。


「まこと」や「真実・真理・真言・事実・現実……」なんてガセ。尻尾のないおサルさんから「はずれて=本能が壊れて=脳内がずれて」、「ヒト=人間様」になって以来、ヒトは、「何か」から「はずれ、ずれ、すれ」た「言葉=ぺらぺら=ラベル」を相手に、景気づけごっこにせっせと「ハゲ」んでいる。いかにも「体毛の薄い=禿げた」尻尾のないおサルさんらしい行動。


 ヒトの口から出る決まり文句=口癖は、「わかる」「わかった」「理解した」「認識した」「さとった」「解脱した」とか「まこと・真実・真理・真言・事実・現実」。でも、それは単なる「言葉=ぺらぺら=ラベル」でしかない。


「わかっても・理解しても・認識しても・さとっても・解脱しても」いない。パワーと元気のもとは、年中発情しているという類まれなホルモンバランスの異常だけでなく、「ぺらぺら=言葉」と、「もやもやごちゃごちゃぐちゃぐちゃ=考える・思う・思考する・思想する」ことらしい。そうしながら、やたら「意味」と「忌み」をでっちあげる。


 とはいえ、「口癖」は強い。ものスゲー強い。月に仲間を送り込んで記念写真を撮ったし、ノストラダムスの予言と2000年問題を乗り切ったし、地球の温度はどんどん上げているし、量子とかいう新たな与太話がブームになりそうだし、バイオテクノロジーとかで寿命をもっと伸ばせそうだし、地球を何百、いや何千回だっけ? とにかくチョー何回もぶっとばせる核兵器を製造するほどの有効性と有意性が、「口癖」にはある。そんだけーと言えばそんだけ、そんなにーと言えばそんなに。


 以上が、「わかった・理解した・認識した・さとった・解脱した・まこと・真実・真理・真言・事実・現実」という「口癖」の強さの証し。なぜか、この星に生まれてきて、ごめんない。なぜか、おサルさんから人間様にずれて、ごめんなさい。なぜか、言葉を獲得して、手癖じゃなくて、口癖が悪くなって、ごめんなさい。生物多様性に、ごめんなさい。核拡散防止に、ごめんなさい。自分自身に、ごめんなさい。この星に、ごめんなさい。


     *


 こんな感じです。


 このとちくるった駄文に、お付き合いくださった心やさしい方に、心からお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。



※この文章は、かつてのブログ記事に加筆したものです。https://puboo.jp/users/renhoshino77





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